お父さんが全財産を長男に相続させるという遺言書をのこして亡くなった、お母さんが生前同居していた次女に多額の現金を贈与してしまっており、亡くなった後には遺産がほとんど残っていなかった、など、亡くなった方が一部の相続人や第三者に対する遺贈や生前贈与で遺産を使い果たしてしまっていることがあります。
このような場合でも、遺産をもらえなかった兄弟姉妹を除く法定相続人は、遺産の最低限の取り分である遺留分をもらえることがあります。
遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の法定相続人のうち、兄弟姉妹(甥姪が代襲相続する場合は甥姪も)以外の相続人に最低限保障されている遺産に対する取り分のことです。
具体的には、直系尊属(亡くなった方の親や祖父母)のみ相続人になる場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1が遺留分とされています。
従って、例えば冒頭の例で、兄弟2人が法定相続人であるにも関わらず、父親が、長男に全財産を相続させるという遺言をのこしていた場合、次男は、法定相続分である2分の1の2分の1、すなわち4分の1の遺留分を侵害されたことになり、それに相当する金銭を長男に請求することができます。
そして、遺留分の侵害による遺留分侵害額請求は、遺言による贈与(遺贈)、死因贈与、生前贈与が対象になりますので、冒頭の二つ目の例でも、母親が行なった生前贈与が、他の法定相続人の遺留分を侵害するような場合には、次女への生前贈与についての遺留分侵害額請求を行うことができます。但し、生前贈与の場合は、相続開始前一年以内の贈与、贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与、もしくは、法定相続人への特別受益に該当する相続開始前10年以内の贈与に限られますので、次女への生前贈与でも、10年以上前の贈与や特別受益に該当しない贈与は対象になりません(令和2年7月1日以降に死亡した場合)。
遺留分侵害額請求の手続は、まず、遺留分侵害額請求を行う旨の意思表示を、遺留分を侵害していると思われる相手方に対して行うことから開始します。この意思表示は、相続開始(被相続人の死亡)と、遺留分の侵害を知ってから1年以内に行う必要があります。遺留分の計算や、遺留分侵害額の計算は、かなり複雑になることもありますので、侵害されているかどうか定かではない場合でも、漫然と放置していると、すぐにこの期間を徒過してしまいますので注意が必要です。
この意思表示を行なったのち、相手方との話し合い、もしくは家庭裁判所の調停で話し合いを行います。話し合いで合意ができなかった場合は、訴訟を提起する必要があります。
遺留分侵害額請求は、侵害額の計算が複雑となることが多いこと、話し合いで解決しない場合は、訴訟を提起する必要があることなどから、通常の遺産分割手続に比べても、ご自身で手続きを行うのが困難な類型であると言えます。
遺言書が発見されたが、一部の者に有利な内容となっている、被相続人が多額に贈与をおこなっていたことが判明した、など、遺留分侵害が疑われる場合は、早めに弁護士にご相談ください。